大相撲にしのび寄る高学歴化の危機
時津風部屋のリンチ事件で時津海(東農大出)が引退・襲名し、学生相撲出身の親方がまた1人増えました。
日本人幕内力士(番付けは秋場所)の学歴をみると、
東 西
千代大海(中卒) 琴光喜(日大)
魁皇(中卒) 豊真将(日大中退)
安美錦(高卒) 琴奨菊(高卒)
稀勢の里(中卒) 若の里(中卒)
栃乃洋(拓殖大) 雅山(明大中退)
北勝力(中卒) 海鵬(日大)
出島(中大) 時津海(東農大)
豊ノ島(高卒) 土佐ノ海(同大)
豊響(高卒) 高見盛(日大)
玉乃島(東洋大中退) 普天王(日大)
豪風(中大) 栃煌山(高卒)
岩木山(青森大大学院休学中!) 豪栄道(高卒)
玉春日(中大) 嘉風(日体大)
北桜(中卒) 垣添(日体大)
春日錦(中卒)
日本人幕内力士29人中、大卒は12人(41%)、中退(大学在籍経験者)も含めれば15人(52%)と過半数を超えます。日本人全体より、「お相撲さん」の方がずっと高学歴なのです。かつては典型的なカレッジスポーツだったサッカーの日本代表と比較しても大相撲の方が大卒率がはるかに高い、という逆転現象がおきています。
2001年以降、アマ相撲の全日本、全国学生、日本実業団、国体成年Aの4冠のうち1冠で幕下15枚目格、2冠以上で幕下10枚目格付出となっています。アマ2冠以上で初土俵を踏んだ者は全勝優勝すれば幕下を1場所で通過、下積みの苦労をまったく味わうことなく関取になることができるようになっています。アマ1冠でも最低2場所で十両昇進が可能です。最多で年間4人づつ(2年で8人、3年で12人、4年で16人)幕下15枚目格でデビューできる資格者が輩出されます。中・高卒で前相撲からとるより、大学に進学して1冠でも獲得した後付出デビューする方がずっと関取になれる確率が高くて、昇進スピードも速く、親方株取得(時津風は今後東農大出の「指定席」となるのでは)でも有利なのが現実。
現役力士だけでなく、高砂(元・朝潮 近大)に続いて時津風のような○○一門と呼ばれる名門部屋の親方が次々と大学出身者で占められるようになり、日本相撲協会理事会が同じ財団法人の日本何某協会化するのも時間の問題w 付出デビューできる「金の卵」をスカウトするにも、親方が同じ大学相撲部OBである方が有利に決まっています。高卒の有望力士(高校相撲経験者)の高校時代の指導者は大学相撲部OBで、スカウトにはやはり大学相撲部人脈が有効です。JSL時代の三菱(慶応)、古河(早稲田)のように、今後相撲部屋の学閥化が進展し、中・高卒力士の肩身はますます狭くなるでしょう。
そこへもってきて、今回のリンチ事件により“褌担ぎ”のなり手がますますいなくなり、高学歴化に拍車がかかることになるに違いありません。大相撲が年々つまらなくなっているのは、大卒力士が親方株の保険つきで“就職”し、力士がサラリーマン化しているのも原因のひとつでしょう。親方株取得のメドがつけば、親方株取得資格である関取在籍場所数をクリアすればよいので、無理してまで「上を目指す」より、「安全運転」を心掛ければよい仕組みになっているのです。これがない外国人力士とはモチベーションからして全然違います。
かつては中卒(中学生もいた 現理事長はその最終世代)を自前で育成していたのが、大学・高校の相撲部、すなわち学校スポーツへの依存度を深めつつあります。サッカーにたとえれば、大相撲はJリーグからJSLに退化している過程にあるのではないでしょうか。