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戦前日本サッカーの情報収集力

1936年ベルリン・オリンピックの直前に、ベルリンのクラブチームとの練習試合でWM(3バック)システムに初めて遭遇した日本代表が、本大会までの短期間に新戦術を吸収し、それが対スウェーデン戦勝利につながったのは著名なエピソードです。

しかし、新戦術にナマで接することはなかったものの、知識としては既知であったことを示す証拠文献がサッカーミュージアムHPにアップされた『蹴球評論』、『蹴球』中にあります。

斎藤才三 「英国だより」 『蹴球評論 第2号』(1931年12月刊)に1931年9月29日ハイベリーでのアーセナル対ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦の観戦記がありますが、p.37(28/45コマ目)のフォーメーションの図には

 LB←CH→RB

と3バックが明記され、“center halfは完全にfull backの位置に居る様だった。”と記されています。斎藤才三は桃山中学(田辺五兵衛の1年後輩で主将を引き継いだ)、関学OBで1930年極東大会優勝メンバー(ポジションはGK)。卒業後毎日新聞のサッカー記者。ハーバート・チャップマン監督(WMシステムの考案者、ファーガソンやベンゲルのようなイングランド式全権掌握型監督の祖。1934年没)時代のアーセナル戦を観戦した唯一の日本人ではないでしょうか。

また、竹腰重丸 「オリンピックの成果(一)」  『蹴球 5巻1号』(1937年5月刊)はオリンピック後に書かれた対スウェーデン戦・イタリア戦の戦訓ですが、p.4(3/23コマ目)に

“また戦法としてのスリーバック制は周知の様に英国アーセナルで数年前に創案せられたもので、すべて英国の技術、戦法に追随する彼等は逸早くそれをとり入れてマスターして居たのであって、我々がDavid Jackの “Soccer”なる本で朧ろ気に概念的に掴むに過ぎず伯林到着後始めて実戦に使ったのに較ぶれば習熟の度合に於て雲泥の差と云はなければならなかった。”(注:「彼等」とはスウェーデン代表)

という記述があります。Jackの著書は『Soccer : experiences of the game with practical instruction on training and on play in each position』(Putnam, 1934)。Jackはイングランド代表主将も務めたアーセナルのインナー(現在の攻撃的MF)。竹腰はオリンピック以前にWMシステムを解説したJackの著書を読んでいたので、概念的には新戦術を理解していたわけです。また、“スリーバック制は周知の様に英国アーセナルで数年前に創案せられたもので”という記述は、竹腰のみならず多くのサッカー関係者がアーセナルの新戦術を認識していたことを示しています。本書は残念ながら国内の所蔵を確認できませんが、British Libraryが以下の書誌事項で所蔵しています。

 System number: 001833282
 Author - personal:JACK, David R., Writer on Football.
 Title:Soccer, etc. [With plates, including a portrait.]
 Publisher/year:pp. viii. 336. Putnam: London, 1934.
 Physical descr.:8º.
 Holdings (All):Details
 Shelfmark:7916.e.30. Request


知識として入ってきながら、ベルリン・オリンピック後まで国内で戦術として採用されなかったのは、おそらく、日本にはポスト・プレーをこなす長身のCFが不在で、CHをCFのマン・マークにつけなくても、2FBで対応できたからでしょう。

しかし、こうした情報収集力があればこそ、新戦術にうろたえることなく適応し、「ベルリンの奇跡」を起こすことができたのに違いありません。

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