岡部平太のパリ・オリンピックサッカー観戦記⑧ 「決勝戦の壮観」『世界の運動界』より
参考:1924年パリ・オリンピック記録(FIFA)
“決勝戦の壮観
(朝日新聞電報)
六月九日 午後二時半、コロンボ競技場で第八回万国オリンピック大会のア式蹴球優勝戦たる、ウルガイ対スイスの試合及び第三位を決する、スエーデン対和蘭の試合が挙行された。恰も祭日の事とて観集殺到し六万人を越へ、満場立錐の余地なき迄の盛況を極めた。最初のスエーデン対和蘭の試合は八日1対1の成績で引分けとなり其後を承けて、再試合のこととて少なからぬ興味をそそり試合も白熱し満場を唸らせた。
第三位決定戦
瑞典 3 和蘭 1
試合は前半戦に瑞典先づ2点を先取し優勢に見へたが、和蘭はペナルティー・キックで一点を挽回し戦はまた大接戦となった。後半戦に入り両軍必死の奮闘をつづけたが、タイムアップ前十分に瑞典又一点を入れて大勢を決し遂に3対1で瑞典勝ち、第三位となった。
優勝戦の経過
ウルガイ 3-0 瑞西
ウルガイ対スイスの優勝戦は満場破れんばかりの拍手を受けつつ先づウルガイ軍入場しついで真紅に白十字のユニホームを著した、スイス選手入場し、戦前既に熱驚の極に達した。ウルガイは既に定評ある優勝候補ティームだが、瑞西も亦強敵、瑞典を破って益々其自信を強め、其奮闘も目覚しいものがあった。
前半戦 ウルガイは開戦後僅かに一分にして前衛ペトローネ、巧みなドリブルの後ゴールシュートに成功し先づ一点を占め其後独特の水も漏らさぬ巧みなティームワークで常に敵のゴールを圧迫し容易に敵にチャンスを与へず、遂に1対0で前半戦を終った。
後半戦 に入って戦は愈々息もつまる様な白熱戦となったが、 スイス方は常にチャンス少なく後半戦開始後二十分でウルガイの前衛、チェヤーは右翼よりのパスを受けゴールインして一点を加へた。 斯くて形勢既に決し従ってスイスが漸くあせり気味なるに反してウルガイは益々其妙技を発揮し試合終了前五分にコーナーキックを受けた前衛のロマノ更に一点を加へスイス最後の奮闘も甲斐なく3-0の成績でウルガイ遂に優勝した。
やがて軍楽隊の国歌吹奏裡にウルガイ国旗は檣頭高く掲げられ光栄に満ちた十一人の勇士は場内を一周した。嗚呼勝者の誉れ。純真なるスポーツの感激に打たれた満場の観集は最早や国境もなく民族の差別もなくただ其栄へある優勝者に万腔の熱誠なる祝意を表するのみで拍手喝采鳴りもやまず流石の大スタンドも、ゆるがんばかり。軍楽隊の奏楽と共に、今次オリンピック大会開始以来未曾有の盛況を呈した。
さあれ破れたる、スイス、ティームも亦誰一人として悪びれた様子なく、優勝者の後に従って場内を一周したのは敗者として見上げた態度であった。斯くて南米の一小邦ウルガイは斯界の強剛二十一ケ国のティームを蹴破し遂に世界の覇権を掌握したが、同ティームは全く欠陥を見出せない程整った立派なテームであった。”(p.292-296)
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