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岡部平太のパリ・オリンピックサッカー観戦記② 「伊太利対イスパニア」『世界の運動界』より

参考:1924年パリ・オリンピック記録(FIFA)

伊太利対イスパニア

 三時半球場に入れば早くもパーシングではスイスが前半戦にリスアニアを四対〇で負かしたといふ高声電話の通告があった。

 国歌の奏楽に送られてイスパニアと伊太利のテームが芝生に現はれた。一は南方の血に勇む闘牛士を想はせる鮮紅に黄金の胸にV字形、黒のパンツのユニホーム。一は南欧の晴れ渡った空色の見る眼も軽いユニホームであった。トスの銀貨が高く上げられてイスパニアが勝った。

 ライトのインナー先づ高く一蹴してチャンスを覗ったが、両軍共大試合の劈頭戦で固くなれるものの如くつまらないミスやエラーが多い。イスパニア機を見てゴールに迫り最初の猛蹴をゴールに試みたけれ共塁手身を挺して巧みに防ぐ。この頃雨脚速き巴里の空は何時しか曇り、豪雨沛然として来り物凄いばかりの光景を呈した。

 伊太利ライトのウイングより抜きレフトにパスし、レフト、シュートしてコーナーキックを得たるも入らず。次でイスパニアゴールシュートしたるも伊太利の名塁手デ・パラ巧みに受け止むればイスパニアのセンター飛び込んで共に負傷す。イスパニア二十碼辺の反則に自由蹴を得たるも入らず。次でセンター巧にドリブルしレフトインナーにパスしたるも惜しくアウトす。両軍共猛烈なファイテング也。

 両軍共戦法は積極的なれどもパスが大き過ぎる。数刻の後雨はれたるも芝生滑りドリブル、チャーヂ共に困難也。伊軍に三度ばかり機会ありしも西軍の塁手ファインプレーに喰ひ止む。一度は伊軍の前衛と衝突し二人ゴール前一尺の処に共に倒れ指先にてポスト外に突き出しコーナーキックとして防ぎとめた。

 斯くて前半戦は両軍、無得点の儘終った。雨はすっかり晴れてグリーンの色は益々鮮かに両軍のユニホームを浮き立たせた。サイドをかへて伊太利のキックオフに戦は再び開始された。伊太利はショートパスによって肉迫した。漸くスペインの弱点を発見したらしい。ゴールを脅かす事数度なれどもチャンス未だ来らず。ただ一人巧防して居たイスパニア軍の塁手は遂に負傷退場した。ゲームは益々ラフになりイスパニア軍の一選手は退場を命ぜられた。こうなれば選手も見物ももう本能性を発揮して来て負傷につぐ負傷、反則につぐに反則が行はれた。

 時間はあと十分、この時伊太利軍のセンター、マルティーンが縫ふて西塁に迫って行った球は彼が最も得意とする球でこれまでもしばしば機を逸して居たのであった。塁手を釣り出す為大きくシュートすると見せては小さいドリブルに変化して巧みにゴール近くまで肉迫して行った。この時西軍の塁手は思ひ切って其球に飛び込んだ。マルティーンは巧みにそれを外すべく小さいドッヂをやった。丁度其時ゴール危しと見たイスパニアの主将フルバックが、塁手の後方に走らうとするときそのドッヂされた球が塁手の陰から抜けて来て膝の辺に当って運命をころがす様にころころとスピード無くポスト後方のネットに触れた。イスパニア軍は其球を抱ゐて其儘ゴールの中で泣き伏した。吁それは、人間にはどうともならない運命的なボールであった。

 伊軍の華々しい退場に比してイスパニアは見るも悄然として競技場を去った。”(p.274-277)

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