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『附属中学サッカーのあゆみ』「チョー・ディンとその頃」

藤岡端「チョー・ディンとその頃」『附属中学サッカーのあゆみ』(東京高等師範学校附属中学蹴球部六十周年誌編纂委員会 1984) pp.24-25

チョー・ディンとその頃

                          (36回) 藤岡端

 「ア式蹴球は日本において未だ正当な評価を受けていない - これは他の競技については多くの著書があるのに、ア式蹴球に関する良書が少ないためと思われる。著者は自らの14年間の経験をもとに、日本で過ごした3年間に気付いたプレーヤーの欠点について出来る限りの指摘をして来た。」私の知る範囲ではキック、タックル、ヘッドなどの各個のプレーについての良い指導書は見当らない。本書で各プレーの目的と技術を説明した。

 チョー・ディンは、本論に入って攻撃、守備の概説、各ポジションの役割、各プレーについての技術的な指導、攻撃、防禦の構成などに及ぶ。殆どのチームが蹴って走り、ドリブルして突っ込むといったプレーを主としてパッシングなど念頭になかった時代の日本のプレーにはじめは当惑したに違いない。当時山口高校の選手としてコーチを受けた故竹腰重丸氏は、“大きな収穫はキックやヘッディングのフォームやタイミングについて、簡単な物理を適用することを教えられ、サッカーは考えることが出来るスポーツであると知ったことであった”と述懐している。これは同氏がメルボルン・オリンピック参加を前に旺文社スポーツ・シリーズ中の一巻として著作された“サッカー”からの引用である。同書は氏の経験と研究をもとに日本人の立場から書き下ろされたものであり、個人プレー、チームプレーを細かに分解して説明し、戦術にまで及ぶ丁寧なもので、その懇切さには類書をみない。しかしそのバックボーンにチョー・ディンの姿がチラつくと云っても著者に対して非礼とはならないと確認する。

 震災前後のわが蹴球界を回顧する。東京育ちには東京高師と日比谷公園の仮設グラウンドが檜舞台であった。フルバックがハーフ・ラインを超す長蹴を放つと観衆は“わァーッ”、ウィングフォワードがドリブルで相手を抜くたびに拍手と感嘆のどよめき。強豪豊島師範の応援は“蹴っ飛ばせやー”の怒号乱舞。こんな時代に分析された技術を基としたキック、ヘッド、タックルを身につけ、ショート・パスを主軸とする攻撃の組み立てがもちこまれたのである。近代サッカーの脱皮の時機であった。そして1925年オフサイド規則の変更(3人制から現行の2人制へ、日本では翌年から実施)により攻防の動きが一層緻密になり、キック・アンド・ラッシュやドリブルを主とするゲームの展開は過去のものとなってしまった。しかも第二次世界大戦後は世界的なプロチームの興隆によってサッカーはまさにスポーツ界の王座にある。オリンピック大会といえどもサッカーをプログラムから外しては経済的に成立しない時代になった。この間日本代表チームの活躍や日本リーグの向上などわがサッカー界も空前の活況にある。したがっが(ママ)わが国のとくに青少年の人気は恐らく野球につぐものであろう。書店には色とりどりのサッカー手引書が並んでいる。そして少年たちが憧れる名選手の写真や、ハデなプレー(リフティング、トラッピングなどなど)の解説などが紹介されている。なんの場合でもファンダメンタルズを習い覚えさせることは困難ではあるが、成功に近道はない。その意味でつたない表現であっても各プレーの基礎をを網羅したチョー・ディン氏の小著は、わがサッカー史に黎明をもたらしたものである。本書が発行されて一週間後が関東大震災、そしてその60周年を記念するように附属中学蹴球部史が編集される。明治生れの老童連はチョー・ディンを追憶しつつ感無量である。”

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